不動産投資を始めると「法人化した方が節税になるのでは?」と考える方が多くなります。特に最近は「マイクロ法人」という形で、最低限の規模で法人を作り、不動産投資や副業に活用する事例も増えてきました。
しかし、マイクロ法人で不動産投資をすることはメリットばかりではありません。節税効果が出るケースもあれば、逆に維持コストや融資の面で不利になる場合もあります。
この記事では、税理士の視点から「マイクロ法人と不動産投資」の関係を整理し、ケース別の最適解を考えていきます。
目次
不動産投資家がマイクロ法人を作る意味
不動産投資にマイクロ法人を活用する主な目的は次の3点です。
- 節税効果:役員報酬を調整することで、所得を分散できる。家族を役員にして報酬を分ければ、累進課税の負担を下げられる。
- 社会保険の調整:国民健康保険より社会保険料を抑えられるケースがある。
- 法人名義での信用力:金融機関からの融資や取引において「法人格」を持つことで有利に働く場合がある。
法人化による節税効果
不動産所得が増えてくると、個人の所得税率は累進課税で上昇します。
- 個人:最高45%+住民税10% → 最大55%
- 法人:中小企業なら法人税等で実効税率約30%前後
👉 一定の所得水準を超えると、法人化による税率の低下効果が見込めます。
また、法人にすることで「役員報酬」「退職金」「生命保険の活用」など、個人では使えない節税手段が増えます。
金融機関との関係・融資面での注意点
不動産投資で重要なのが「融資」。法人化は必ずしも有利になるわけではありません。
メリット
- 法人としての決算書を提出でき、事業性をアピールしやすい。
- 規模拡大を考えている場合にプラス。
デメリット
- 設立直後のマイクロ法人は実績がなく、融資審査で不利になりやすい。
- 個人の属性(年収・勤務先・資産背景)が重視されるケースが多い。
👉 融資戦略を考えずに法人化すると、資金調達が難しくなるリスクがあります。初めて不動産投資をするのに法人を作る場合には必ずと言ってもよいのですが、融資担当者と話を通しておきましょう。
管理・経費計上の実務
法人にすることで計上できる経費の幅が広がります。
税務上認められるもの
- 管理会社への委託料
- 減価償却費
- 役員報酬
- 事務所家賃や通信費
- 事業上必要な交際費
認められにくいもの
- 個人の生活費(住宅ローンや光熱費の私的利用分)
- 家族だけの役員や従業員の法人での旅行
- 法人の実態がない場合の形式的な支出
👉 「実態のある経費かどうか」が重要。形式だけの法人化はリスクです。
不動産投資と相性が悪いケース
マイクロ法人は全員に適しているわけではありません。特に次のようなケースは不向きです。
- 不動産所得が少額(年間100〜200万円程度)
- すでに個人属性で融資が通りやすい
- 法人を維持するコスト(均等割7万円+社会保険料)が節税効果を上回る
- 副業禁止の勤務先に勤めている場合に自身に役員報酬を出す
👉 節税額よりコストの方が大きくなってしまうと、逆に損をします。
年収ライン別シミュレーション例(不動産所得)
不動産投資で得られる年間所得を基準に、マイクロ法人化の損得を簡易的にシミュレーションしてみます。
| 不動産所得 | 個人課税(目安) | 法人課税+維持費(目安) | 有利/不利 |
|---|---|---|---|
| 200万円 | 所得税・住民税 約25万円 | 法人均等割7万円+顧問料20万円=27万円 | 個人有利 |
| 500万円 | 所得税・住民税 約100万円 | 法人税等約30%=150万円+維持費30万円 | 個人有利 |
| 1,000万円 | 所得税・住民税 約350万円 | 法人税等約30%=300万円+維持費30万円 | 法人有利 |
| 2,000万円 | 所得税・住民税 約800万円 | 法人税等約30%=600万円+維持費30万円 | 法人有利 |
※実際には法人側での役員報酬の設定や経費の内容により結果は変わります。
まとめ:ケースバイケースで判断を
マイクロ法人を使った不動産投資は、節税・社会保険料削減・信用力の向上などメリットがありますが、維持費や融資面でのデメリットもあります。
- 所得規模が大きい人 → 法人化のメリット大
- 規模が小さい人 → 個人のままの方がシンプルで有利
- 融資戦略を考えている人 → 個人・法人の両輪で設計が必要
👉 「節税できる」と安易に飛びつかず、自身の所得・事業計画・融資戦略を踏まえて判断することが大切です。
ご自身のケースでマイクロ法人を作るべきか迷う方は、ぜひ当事務所のスポット相談で税理士にご相談ください。



















