「マイクロ法人は節税に有利」といった情報をSNSや口コミで見て、気になっている方も多いのではないでしょうか?
確かに上手に使えば社会保険料の削減や税金の最適化につながります。
しかしその一方で、思ったように節税できなかったり、逆にコストやリスクが増えてしまう失敗事例も少なくありません。
特に「安易に設立したけど、結局やめた方がよかった…」という相談を受けることもあります。
この記事では、マイクロ法人のデメリットと実際に起こり得る失敗事例を税理士の視点で整理し、最後に失敗しないための注意点もお伝えします。
目次
実態が伴わない場合のリスク(社会保険調査等)
マイクロ法人を設立しても、事業実態がないと「形式だけの法人」とみなされ、次のようなリスクがあります。
- 社会保険未加入の指摘
法人を設立すると、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)の適用対象です。
実態のない法人で報酬設定を不自然に低くすると、年金事務所から調査が入り「適切な報酬額で加入し直してください」と指導されることがあります。 - 税務調査で否認されるリスク
売上や業務実態が乏しいのに経費や役員報酬を計上すると、
「節税目的の形式的スキーム」と見なされ否認・追徴の可能性があります。
特にマイクロ法人を設立しても個人事業主としても仕事をしている場合には、その線引がしっかりできていないといけません。 - 銀行口座開設の難航
事業実態や計画が不十分だと金融機関の審査を通過できず、法人の運営自体がスタートできないこともあります。(最悪会計の帳簿上は現金のやり取りでは可能ですが)
節税効果が思ったより出なかったケース
SNSでは「社会保険料が大幅に下がった」「税金が減った」といった成功例が目立ちますが、
全員が同じ効果を得られるわけではありません。
- 年収が低い場合
年収500万円以下では、法人維持費(均等割7万円、会計ソフト、税理士費用など)が節税額を上回り、トータルで損することがあります。 - 役員報酬の設定ミス
報酬を低くしすぎると社会保険料は下がりますが、将来の年金受給額が大幅に減少。
逆に高すぎると社保負担が増え、節税どころか負担増に。 - 所得分散が機能しない
家族を役員にして報酬を分けても、扶養から外れて社会保険料・住民税が増え、世帯トータルで損になることもあります。
👉 「節税になるはず」と深く考えずに思い込みで設立し、事前の試算不足で効果が限定的だったという失敗は珍しくありません。
管理コスト・事務負担で挫折した事例
マイクロ法人は設立がゴールではありません。
その後の運営コストと事務負担を軽く見ると挫折に繋がります。
- 法人決算・申告の負担
個人事業では不要だった法人決算・法人税申告が毎年発生。会計ソフト代や顧問税理士費用が新たにかかります。 - 事務作業が増える
登記、社会保険届出、給与計算、年末調整、源泉所得税、インボイス登録をすれば消費税の計算や申告など、タスクは確実に増加。
副業サラリーマンの場合は「本業+副業+法人管理」でオーバーワークに。 - 放置→延滞のリスク
申告遅延や納付漏れで延滞税・加算税が発生し、節税どころではなくなることも。
👉 「法人を作ったのに、管理に疲れて放置 → かえって損した」…典型的な失敗パターンです。
就業規則違反で問題になったケース
副業サラリーマンがマイクロ法人を設立する際、特に注意すべきは勤務先の就業規則です。
- 副業禁止規定
法人設立が発覚すると懲戒・退職勧告の対象になる恐れ。登記簿で役員就任は外部からも確認可能です。 - 兼業許可の不取得
許可制の会社で申請を怠ると、発覚時に大きなトラブルへ。 - 利益相反
勤務先と競合する事業や、勤務先の取引先と自法人で直接取引をすると、利益相反とみなされる可能性があります。
👉 「バレなければ大丈夫」ではなく、キャリア自体のリスクを冷静に評価しましょう。
年収ライン別:失敗しやすいパターン
マイクロ法人は年収によって効果の出方が大きく変わります。
「節税できると思って作ったのに、逆に損した」という典型例を年収別に整理しました。
| 年収ライン | 失敗しやすいパターン | 理由・背景 |
|---|---|---|
| 500万円 | 法人維持費が節税額を上回る | 均等割や税理士費用で年15〜30万円。節税額がそれ以下だと赤字。小規模・低収入層は特にリスク大。 |
| 800万円 | 役員報酬設定ミスで負担増 | 報酬高すぎ→社保増、低すぎ→将来年金減+信用低下。設計不足で効果が薄れる。 |
| 1,000万円 | 事務負担に耐えられず放置 | 節税余地は大きいが、法人税・消費税・源泉・年末調整など管理負担も大。放置で延滞・加算税リスク。 |
👉 目安として、年収500万円以下は慎重に。
800万〜1,000万円以上でようやくメリットと負担が釣り合うケースが増えます(個別条件で変動)。
まとめ:失敗しないための注意点
- 実態のある運営:売上・業務・取引記録を整え、形式だけの法人にしない。
- 事前シミュレーション:年収ライン、家族構成、社会保険、役員報酬別に必ず複数案で試算。
- コストと手間を見積もる:均等割・会計ソフト・税理士費用・申告手間を年間計画に織り込む。
- 就業規則と倫理:副業許可・利益相反を必ず確認。キャリアへの影響も評価。
- 運用設計:請求・経費・給与・社保のフローを最初に認識し、すべき事を整える。
👉 これらをクリアできる人には、マイクロ法人は強力な選択肢になります。
一方で条件が合わない方にとっては、デメリットや失敗の温床になりかねません。
ご自身のケースで「設立すべきかどうか」を迷う場合は、お問い合わせよりご相談ください。





















