「毎月、税理士から試算表をもらっているけれど、正直どこを見ればよいのか分からない」
中小企業の社長から、このようなご相談を受けることは少なくありません。
試算表には売上高、仕入高、人件費、営業利益、売掛金、借入金など、たくさんの数字が並んでいます。
しかし、社長が毎月すべての勘定科目を細かく確認する必要はありません。
大切なのは、会社の状態と今後の経営判断に直結する数字を絞って、毎月継続して見ることです。
そして、売上や利益だけを見るのでは不十分です。
会社経営では最終的に、
- 利益は出ているか
- 現預金はいくら残っているか
- 今後も資金が回るのか
まで確認する必要があります。
数字を見る目的は、数字を知ることではありません。
数字をもとに、次の経営判断をすることです。
この記事では、社外CFO税理士の立場から、社長が毎月確認しておきたい7つの数字と、それぞれの数字を経営にどう活かすのかを解説します。
社長は決算書のすべてを見る必要はない
「経営者なら決算書を読めるようにならなければいけない」
そう言われることがあります。
もちろん、会社の数字について最低限の知識を持つことは大切です。
しかし、社長自身が税理士や経理担当者と同じレベルまで簿記や会計を勉強する必要はありません。
社長に必要なのは、
「自社の重要な数字が今どうなっていて、それによって何を判断すべきなのか」
を理解することです。
そのためには、毎月見る数字をあらかじめ決めてしまうことをおすすめします。
私が中小企業の社長にまず確認していただきたいと考えているのは、次の7つです。
- 売上高
- 粗利益・粗利率
- 営業利益
- 現預金残高
- 借入金残高と返済額
- 売掛金・在庫などの運転資金
- 3~6か月先の資金繰り
順番に見ていきましょう。
社長が毎月見るべき7つの数字
1.売上高|「いくら売れたか」だけではなく推移を見る
最初に確認するのは、やはり売上高です。
ただし、
「今月は1,000万円売れた」
という金額だけを見ても、経営判断には十分ではありません。
例えば、次のように比較します。
- 前月と比較してどうだったか
- 前年同月と比較してどうだったか
- 予算と比較してどうだったか
- 期首からの累計ではどうか
特に季節変動のある事業では、前月との比較だけでは正しく判断できない場合があります。
飲食店、アパレル、小売業などであれば、前年同月と比較した方が実態をつかみやすいこともあります。
売上が落ちていたら、単に「売上が減った」で終わらせず、
- 客数が減ったのか
- 客単価が下がったのか
- 既存顧客の売上が落ちたのか
- 新規顧客が減ったのか
- 特定の商品やサービスが落ちているのか
まで分解して考えてみます。
数字の変化には、必ず何らかの原因があります。
2.粗利益・粗利率|売上が増えても利益が残っているか
売上高とセットで確認したいのが、粗利益です。
粗利益とは、売上から商品の仕入や材料費などの売上原価を差し引いた利益です。
例えば、売上が前年より10%増えていても、仕入価格の上昇や値引きによって粗利率が大きく下がっていれば、会社の収益力はむしろ悪化している可能性があります。
粗利率が下がっていたら、次のような点を確認します。
- 仕入価格や材料費が上がっていないか
- 値引き販売が増えていないか
- 利益率の低い商品・案件が増えていないか
- 販売価格を据え置いたまま原価だけ上がっていないか
- 外注費などを適切に原価として把握できているか
原価が上昇しているのに販売価格を変えていなければ、売れば売るほど忙しくなる一方で、会社に利益が残りにくくなることもあります。
その場合は、価格改定、仕入先との交渉、商品構成の見直しなどを検討する必要があります。
3.営業利益|本業そのものが儲かっているか
次に見るのが営業利益です。
営業利益は、会社の本業そのものからどれくらい利益が出ているかを見る数字です。
売上が増えていても、
- 人件費が急増している
- 広告費が増えている
- 家賃などの固定費が増えている
- 外注費が想定以上に膨らんでいる
といった状況では、営業利益が減っていることがあります。
ここでも単月だけではなく、累計や推移を確認することが重要です。
例えば、一時的に採用費や広告費を使った結果として今月だけ赤字なのであれば、必ずしも問題とは限りません。
一方で、数か月連続して営業利益が悪化しているのであれば、早めに原因を確認する必要があります。
「なぜこの利益になったのか」を説明できる状態にしておくことが大切です。
4.現預金残高|会社に実際いくらお金があるか
私が特に重視しているのが、現預金残高です。
会社は利益だけでは経営できません。
給与も、家賃も、税金も、借入金の返済も、最終的には現金で支払います。
そのため、毎月必ず確認していただきたいのが、
「今、会社の銀行口座にいくらお金があるのか」
という非常にシンプルな数字です。
例えば、月商1,000万円の会社に現預金が300万円しかなければ、少し大きな支払いが発生しただけで資金繰りが厳しくなる可能性があります。
反対に、十分な現預金を持っていれば、
- 売上が一時的に落ちたとき
- 大口取引先の入金が遅れたとき
- 設備投資をするとき
- 人を採用するとき
- 新しい事業へ投資するとき
にも、経営の選択肢を持つことができます。
利益は会社の成績を表しますが、現預金は会社の体力を表します。
私は、会社と社長に十分な現金を残し、経営の選択肢を増やしていくことを「現預金最大化」と呼んでいます。
詳しくは、こちらの記事で解説しています。
5.借入金残高と毎月の返済額|借入額だけではなく返済負担を見る
借入金がある会社では、借入金残高も毎月確認しておきたい数字です。
ただし、
「借入金が5,000万円ある」
という残高だけを見るのではありません。
重要なのは、
- 毎月いくら返済しているのか
- 今後何年間返済が続くのか
- 利益やキャッシュフローに対して返済額が重すぎないか
という点です。
特に注意したいのは、借入金の元本返済は損益計算書の費用にはならないということです。
例えば、会社に年間1,000万円の利益が出ていても、借入金の元本を年間1,200万円返済していれば、それだけで現金は大きく減ります。
「黒字なのに現金が増えない」会社では、借入金返済が大きな原因になっていることがあります。
利益と現金の違いについては、こちらの記事も参考にしてください。
6.売掛金・在庫などの運転資金|利益が現金に変わっているか
売掛金や在庫も、会社の現金を大きく左右します。
例えば、1,000万円の売上を計上していても、その代金をまだ回収していなければ、会社に現金は入ってきません。
在庫も同じです。
商品を仕入れるために現金を支払っても、その商品が売れずに倉庫に残っていれば、その分のお金は在庫という形に変わっています。
そのため毎月、
- 売掛金が急増していないか
- 入金が遅れている取引先がないか
- 在庫が増え続けていないか
- 売れない在庫が残っていないか
- 買掛金の支払条件と売掛金の回収条件に無理がないか
を確認します。
会社が成長して売上が増えるほど、売掛金や在庫が増え、運転資金が必要になることもあります。
売上が増えているのに資金繰りが苦しくなることは、決して珍しくありません。
7.3~6か月先の資金繰り|未来の預金残高を見る
最後に確認したいのが、3~6か月先の資金繰りです。
ここが、試算表を見るだけの経営管理と大きく違うところです。
試算表に載っている数字は、基本的に過去の結果です。
しかし社長が経営判断をするために本当に知りたいのは、
「このまま経営したら、3か月後に会社のお金はいくら残っているのか」
ではないでしょうか。
例えば現在1,000万円の預金があっても、今後、
- 法人税・消費税の納税
- 賞与
- 設備投資
- 借入金返済
- 大きな仕入
が予定されていれば、数か月後には預金が大きく減る可能性があります。
だからこそ、今の預金残高だけではなく、将来の入出金まで確認します。
資金繰り表については、こちらの記事で詳しく解説しています。
社長は「単月」ではなく「推移」で数字を見る
毎月の数字を見るときに重要なのが、単月だけで判断しないことです。
例えば今月の営業利益が200万円だったとしても、その数字だけでは良いのか悪いのか判断できません。
毎月の数字は、できれば次のような視点で比較します。
- 前月との比較
- 前年同月との比較
- 予算との比較
- 当期累計
- 過去6~12か月の推移
数字を横に並べてみると、
「3か月連続で粗利率が下がっている」
「売上は増えているのに現預金は減っている」
「売上の伸び以上に人件費が増えている」
といった変化が見えるようになります。
経営では、金額そのものより「数字がどちらへ動いているか」が重要なことがあります。
利益が出ているのに現預金が減っていたら要注意
社長が月次の数字を見る際に、ぜひセットで確認していただきたいのが、
「利益」と「現預金」の動き
です。
例えば、毎月利益が出ているのに、預金残高が少しずつ減っているとします。
この場合は、
- 売掛金が増えている
- 在庫が増えている
- 借入金返済が大きい
- 設備投資をしている
- 税金を支払った
- 会社から社長への貸付金が増えている
など、どこかに原因があります。
ここを放置していると、
「決算書では利益が出ているのに、なぜか会社にお金がない」
という状態になってしまいます。
だから私は、利益だけではなく現預金残高と資金繰りまでセットで確認することをおすすめしています。
社長が毎月見る数字は「1枚」にまとめる
毎月何ページもの試算表を最初から最後まで読む必要はありません。
むしろ社長用には、重要な数字をA4用紙1枚程度の月次経営レポートにまとめる方が実務的です。
(弊所でも顧問先様には「経営レポート」と称して作成してお渡ししております。)
例えば、次のような項目を1枚にまとめます。
| 確認する数字 | 社長が確認するポイント |
|---|---|
| 売上高 | 前年・予算と比較して伸びているか |
| 粗利益・粗利率 | 原価上昇や値引きで悪化していないか |
| 営業利益 | 本業で利益を確保できているか |
| 現預金 | 会社の手元資金は十分か |
| 借入金 | 残高と返済負担は適正か |
| 売掛金・在庫 | 現金化されていない資産が増えていないか |
| 資金繰り | 3~6か月先の預金残高は安全か |
このように整理すると、数字が苦手な社長でも毎月同じ順番で確認できます。
そして、気になる数字があった場合だけ試算表や明細まで掘り下げればよいのです。
数字を見た後に社長が考える3つの質問
月次決算や試算表を作るだけでは、会社は良くなりません。
数字を確認した後に、経営判断へつなげることが重要です。
私は、少なくとも次の3つを考えることをおすすめします。
① なぜ、この数字になったのか?
売上、利益、現預金が増減した原因を考えます。
② このまま行くと、3か月後どうなるのか?
今の状態が続いた場合の利益と資金繰りを考えます。
③ 今月、何を変えるのか?
価格、経費、採用、投資、融資など、具体的な行動を決めます。
この3つを毎月繰り返すだけでも、数字の見方は大きく変わります。
過去の数字を確認するだけではなく、数字を未来の意思決定に使うことが大切です。
税理士から試算表をもらうだけではもったいない
税理士へ経理や決算を依頼している会社でも、数字そのものを税理士任せにしてしまうのはおすすめしません。
税理士に作業を依頼することと、社長が数字を見なくてよいことは別です。
社長自身も少なくとも、
- 売上はいくらか
- 利益はいくらか
- 現預金はいくらか
- 借入金はいくらか
- 今後いくら税金を払うのか
- 数か月先の資金繰りはどうなるか
くらいは把握しておきたいところです。
税理士は「社長の代わりに数字を見る人」というより、
社長が数字を正しく理解し、より良い経営判断をするための支援者
として活用するのが理想だと私は考えています。
ひとり社長と税理士の関わり方については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
売上や利益だけではなく「現金が残る経営」へ
会社経営では、売上を伸ばすことも利益を出すことも重要です。
しかし、最終的に会社に現金が残らなければ、経営の自由度は高まりません。
税金を減らすために必要以上にお金を使ったり、利益が出ているからと大きな投資をした結果、資金繰りが厳しくなったりすることもあります。
だからこそ、
- 利益を出す
- 現金を残す
- 将来の資金繰りを見る
という3つをセットで考える必要があります。
これが、私が考える現預金最大化経営の基本です。
まとめ|社長は毎月「利益・現預金・未来」を見る
社長が毎月見るべき数字として、今回は次の7つをご紹介しました。
- 売上高
- 粗利益・粗利率
- 営業利益
- 現預金残高
- 借入金残高と返済額
- 売掛金・在庫などの運転資金
- 3~6か月先の資金繰り
すべての勘定科目を細かく覚える必要はありません。
まずは重要な数字を毎月同じ順番で確認し、変化に気づける状態を作ることが大切です。
そして最後に、
「なぜこの数字になったのか」
「このまま行くとどうなるのか」
「では今月、何をするのか」
まで考えてみてください。
月次の数字を見る目的は、過去を反省することではありません。
来月以降の経営判断を、より良くするためです。
利益だけではなく、現預金と将来の資金繰りまで確認する。
それを毎月の習慣にすることが、会社に現金を残し、経営の選択肢を増やす第一歩になります。
自社の数字を経営判断に活かしたい方へ
「試算表はあるけれど、どこを見ればよいか分からない」
「利益は出ているのに、なぜ現金が増えないのか整理したい」
「今後の資金繰りや借入、投資判断まで含めて相談したい」
という経営者の方は、ご相談ください。
決算書や試算表を確認しながら、会社に現金を残すために何から改善すべきかを一緒に整理します。













