「銀行に決算書を渡したけれど、一体どこを見られているのだろう?」
融資を受けている中小企業の社長であれば、一度は気になったことがあるのではないでしょうか。
決算書には、売上、利益、預金、売掛金、借入金、純資産など、さまざまな数字が並んでいます。
銀行はこれらの数字を確認しながら、「この会社にお金を貸した場合、今後も事業を続け、返済していけるか」を判断します。
そのため、単純に「黒字だから融資が通る」「赤字だから借りられない」という話ではありません。
銀行が見るポイントは金融機関や融資案件によって異なりますが、一般に、利益、自己資本、借入金、返済能力、現預金、売掛金・在庫などの資産内容、過去からの推移などを総合的に確認します。
この記事のポイント
- 銀行は「利益」だけでなく、返済能力と財務体質を見ている
- 損益計算書だけでなく、貸借対照表も重要
- 借入金の額だけでなく、返済原資とのバランスが重要
- 売掛金・在庫は、金額だけでなく中身も確認される
- 近年は過去の決算数値だけでなく、事業の実態・将来性や将来キャッシュ・フローも重視する方向が強まっている
銀行が決算書を見る目的は「返済できる会社か」を判断すること
銀行から見れば、融資は「お金を貸して終わり」ではありません。
会社が事業を続け、利益やキャッシュ・フローを生み、その中から元本と利息を返済してもらう必要があります。
そのため、銀行は「今後も事業を継続し、借入金を返済できる財務体質なのか」を確認します。
一方で、現在の融資実務は決算書だけで判断する方向ではありません。金融庁は、地域金融機関に対して、担保・保証だけに依存せず、企業の事業性を評価した融資を促しています。
さらに2026年5月25日に「事業性融資の推進等に関する法律」が施行され、金融庁は、融資審査において事業の実態や将来性を理解し、将来キャッシュ・フローの見通しや不確実性を踏まえて返済可能性を評価する考え方を示しています。
つまり、決算書は非常に重要ですが、決算書だけですべてが決まるわけではないということです。
銀行が決算書で見る7つのポイント
銀行ごとの内部審査基準は公開されておらず、融資商品や企業の状況によっても評価方法は異なります。
そのうえで、中小企業の社長が押さえておきたいポイントを7つに整理すると、次のとおりです。
1.純資産|会社にどれだけ自己資本が残っているか
まず確認したいのが、貸借対照表の「純資産」です。
純資産は、大まかにいえば、会社の資産から負債を差し引いた部分です。
- 資産:5,000万円
- 負債:3,000万円
- 純資産:2,000万円
純資産が厚い会社は、過去の利益を内部に蓄積してきた可能性が高く、業績が一時的に悪化したときの耐久力も比較的高いと考えられます。
反対に、負債が資産を上回る債務超過の状態では、融資審査で慎重に見られる要因になります。
ただし、債務超過だから直ちに融資不可というわけではありません。一時的な要因なのか、改善計画があるのか、事業自体に収益力があるのかなども含めて判断されます。
経済産業省の「ローカルベンチマーク」でも、企業の財務状態を見る指標の一つとして自己資本比率が採用されています。
2.利益|本業で継続的に利益を生み出せているか
次に確認されるのが損益計算書です。
- 売上高
- 売上総利益
- 営業利益
- 経常利益
- 当期純利益
重要なのは、最終利益だけを見るわけではないことです。
たとえば、固定資産の売却など一時的な要因によって当期純利益が黒字でも、本業が赤字であれば、その内容は確認されます。
逆に、一時的な損失によって最終赤字でも、本業の収益力が維持されている場合は、赤字の原因や今後の見通しを説明することが重要です。
銀行が知りたいのは、この会社が今後も事業から継続的に収益を生み出せるかという点です。
ローカルベンチマークでも、財務指標として「売上高増加率」「営業利益率」が用いられています。
3.借入金|すでにどれくらい借りているか
銀行は、現在の借入金残高も確認します。
同じ年商1億円の会社でも、借入金が1,000万円の会社と1億円の会社では、財務状態は大きく異なります。
ただし、借入金が多いこと自体が直ちに悪いわけではありません。
- 会社の規模に対して借入金が過大ではないか
- 利益やキャッシュ・フローに対して返済負担が重すぎないか
- 短期借入金と長期借入金の構成は適切か
- 借入金が継続的に増えていないか
- 何のために借りた資金なのか
経済産業省のローカルベンチマークでも、借入負担と収益力の関係を見る指標としてEBITDA有利子負債倍率が採用されています。
4.返済能力|利益とキャッシュ・フローから返済できるか
融資審査では、会社が借入金を返済していけるかという返済能力が重要です。
簡易的な確認方法の一つとして、税引後利益に減価償却費を加えた金額などから、年間に生み出せる返済原資を考える方法があります。
- 年間の返済原資:1,000万円
- 年間の借入元本返済:600万円
であれば、単純計算では返済後にも一定の余力があります。
一方で、
- 年間の返済原資:500万円
- 年間の借入元本返済:800万円
という状態が続けば、預金を取り崩したり、別の資金調達が必要になったりする可能性があります。
実際の融資審査では、金融機関ごとに算定方法や見る指標が異なるため、上記はあくまで経営者が返済余力を把握するための簡易的な考え方です。
借入金の元本返済は損益計算書には出てこない
借入金を毎月返済していても、元本返済額は経費にはなりません。
- 年間利益:1,000万円
- 借入元本返済:1,200万円
だった場合、決算書上では利益が出ていても、借入返済だけで利益額を上回る現金が出ていくことになります。
このため、「黒字なのに預金が増えない」ということが起こります。
5.現預金|会社にどれくらい資金余力があるか
貸借対照表の現金・預金残高も重要です。
預金が十分にあれば、売上の一時的な減少、納税、賞与、設備投資などが発生しても対応しやすくなります。
反対に、預金残高が極端に少なく、目前の支払いのために急いで資金が必要な状態では、金融機関に対して資金使途や返済計画をより丁寧に説明する必要があります。
そのため融資は、資金が尽きてから初めて考えるのではなく、資金繰りを予測して早めに準備することが重要です。
6.売掛金・在庫|資産の「中身」に問題がないか
銀行は貸借対照表の資産合計だけではなく、その資産がどのような内容なのかも確認します。
たとえば、売掛金が3,000万円あっても、長期間回収されていない債権が含まれていれば、その回収可能性を確認する必要があります。
在庫も同じです。
- 長期間売れていない
- 陳腐化している
- 実際の販売可能性が低い
といったものが含まれていれば、資産としての実質的な価値を慎重に見る必要があります。
ローカルベンチマークでも、売上債権や棚卸資産、仕入債務の関係を見る営業運転資本回転期間が財務指標の一つに採用されています。
7.数字の推移|1期だけでなく過去数年を見る
決算書は、直近1期だけを見るより、複数年を並べた方が会社の方向性が分かります。
- 売上高:1億円 → 1億2,000万円 → 1億5,000万円
- 営業利益:500万円 → 800万円 → 1,200万円
- 純資産:1,500万円 → 2,000万円 → 2,800万円
- 現預金:1,000万円 → 1,500万円 → 2,000万円
一方、売上が増えているにもかかわらず、利益が減っている、売掛金や在庫が急増している、借入金が増えている、預金が減っている、といった場合は、その原因を整理しておく必要があります。
銀行が知りたいのは、現在の数字だけではなく、なぜ変化したのか、そして今後どうなるのかです。
銀行が見るのは「損益計算書」だけではない
融資を考えるなら貸借対照表も非常に重要です。
損益計算書では黒字でも、預金がほとんどない、売掛金が大きく増えている、在庫が急増している、借入金が増え続けている、純資産が少ない、といったケースがあります。
反対に、一時的に赤字でも、現預金や自己資本に余力があり、赤字の原因と回復見通しを合理的に説明できる場合には、評価は一律ではありません。
銀行融資を考えるなら、P/LだけでなくB/Sも毎月見る習慣を持つことが重要です。
銀行への説明が必要になりやすい決算書の特徴
- 連続赤字
- 債務超過
- 借入金が継続的に増えている
- 現預金が急激に減っている
- 売掛金が売上以上のペースで増えている
- 在庫が急増している
- 役員貸付金が多額にある
- 仮払金や未収入金の内容が不明確
- 税金や社会保険料に未納がある
- 売上や利益が前年から大きく悪化している
ただし、これらがあるからといって、直ちに融資不可になるという意味ではありません。
重要なのは、なぜその数字になったのか、今後どう改善するのかを説明できることです。
特に注意したい「役員貸付金」
役員貸付金は、会社から社長などの役員へ資金を貸している状態です。
金額が大きい場合には、金融機関から、資金の使途や会社への返済予定を確認される可能性があります。
- なぜ発生したのか
- 何に使ったのか
- いつ、どのように返済するのか
を説明できるようにしておきたいところです。
節税をしすぎると融資とのバランスを欠くことがある
銀行融資を重視する会社では、節税だけを基準に経営判断をするのはおすすめできません。
本来1,000万円の利益が見込まれる会社が、節税だけを目的に多額の支出を行い、利益と現預金を大きく減らしてしまえば、返済余力や財務体質にも影響します。
大切なのは、税金がいくら減るかだけではなく、実行後に会社へいくら現金が残り、財務体質がどう変わるかを見ることです。
「銀行に評価される決算書を作る」とは数字を操作することではない
銀行に説明しやすい決算書を作るというのは、決算直前に数字を操作することではありません。
- 利益を確保する
- 不要な支出を減らす
- 売掛金を早く回収する
- 不要在庫を減らす
- 現預金を厚くする
- 借入金と返済能力のバランスを管理する
- 役員貸付金などの不明瞭な資産を減らす
といった経営改善を行った結果として、決算書も改善していくのが本来の姿です。
決算書は会社の経営の結果です。
融資に備えて毎月確認しておきたい数字
- 売上高
- 粗利益
- 営業利益
- 現預金残高
- 売掛金
- 在庫
- 借入金残高
- 月間返済額
- 今後の納税見込額
さらに、3〜6か月先の資金繰りまで予測できれば、資金不足が起きる前に金融機関へ相談できます。
決算書が良ければ必ず融資が通るわけではない
金融機関は、会社の事業内容、経営者や経営体制、資金使途、今後の事業計画、返済計画、業界環境、取引状況、担保・保証の状況なども踏まえて総合的に判断します。
特に現在は、金融庁が「事業性評価」や「事業性融資」を推進しており、過去の財務数字だけでなく、事業の実態・将来性・将来キャッシュ・フローを金融機関と共有することが一層重要になっています。
経済産業省のローカルベンチマークも、財務情報だけでなく、経営者、事業、取引関係、内部管理体制などの非財務情報を金融機関等との対話に活用する仕組みです。
悪い数字は隠すより「原因と改善策」を説明する
重要なのは、悪い数字が一つもないことではありません。
自社の数字を把握し、金融機関ときちんと対話できることです。
銀行に説明できる決算書を作る3つのステップ
STEP1.毎月の数字を把握する
まずは月次試算表をできるだけ早く作成します。
STEP2.資金繰りを予測する
納税、借入返済、賞与、設備投資などを反映し、いつ、どれくらい資金が必要になるのかを予測します。
STEP3.資金が必要になる前に銀行へ相談する
必要資金が事前に分かれば、資金繰りが切迫する前に金融機関へ相談できます。
- なぜ資金が必要なのか
- 何に使うのか
- その資金によって事業がどう変わるのか
- どのように返済していくのか
まで説明できるようにしておきましょう。
銀行融資は経営の選択肢を増やす資金調達手段でもある
銀行融資は、単なる「借金」として考えるだけではありません。
適切に活用すれば、会社の現預金を厚くし、経営の選択肢を確保する資金調達手段になります。
まとめ|銀行は利益だけでなく会社全体の返済能力を見ている
- 純資産|自己資本は十分か
- 利益|本業から継続的に利益を生み出せるか
- 借入金|借入負担は大きすぎないか
- 返済能力|キャッシュ・フローから返済できるか
- 現預金|資金余力があるか
- 売掛金・在庫|資産の中身に問題がないか
- 数字の推移|会社がどちらの方向へ向かっているか
そして現在は、これらの決算書上の数字に加えて、事業の実態・将来性・将来キャッシュ・フローも金融機関との対話で重要になっています。
銀行融資への対策は、融資を申し込む直前に始めるものではありません。
毎月の利益、現預金、資金繰り、借入金を確認し、銀行へいつでも自社の状況と今後の計画を説明できる状態を作っておくことが重要です。
決算書は「税務署へ提出するためだけの書類」ではありません。
会社の財務状態を金融機関へ伝える資料であり、同時に、社長自身がこれからの経営判断を行うための資料でもあります。
参考:金融庁「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」、金融庁「金融機関の取組みの評価等に関する企業アンケート調査」、中小企業庁「中小企業白書(ローカルベンチマーク)」等














